松戸市立総合医療センター
救命救急センターを知る
当センターの4つの使命
重症外傷 〜体幹部外傷に対するTrauma Surgery と IVR〜
松戸市は水戸街道の宿場町であり、現在も東京外環道と国道6号線が交差する交通の要衝です。そのため、交通事故による鈍的重症外傷が多く搬送されます。また、刺創などによる胸腹部あるいは頸部の鋭的損傷も多くなっています。
これらの外傷を救うには、搬送された直後の戦略が生命予後に大きく影響しますが、同時に、特に体幹部の損傷に対する遅滞のない手術を行えることが必要です。私達はAcute Care SurgeryのSpecialistとして、この体幹部外傷に対するTrauma Surgeryの実践と教育に力を入れています。
また、近年IVRの技術の発展は目覚ましいものがあり、重症外傷患者、特に、骨盤骨折等に対しては必須の治療となっています。ただし、Trauma Surgery とIVRはお互いを補完し合うものであり、シームレスに行えることが重要です。私達は、それを実践し、さらに、両方を行える外傷外科医の育成しています。
この重症外傷の救命は当センターの重要な使命です。重症外傷に対する開胸開腹手術(来院時心肺停止を除く)は年間60例ほどあり、予測生存率50%未満の重症外傷患者も毎年複数救命することができています。
心肺停止 〜beyond ACLS〜
高齢化により病院外で心肺停止に陥る患者さんが増え続けています。当センターに搬送される年間300例以上の院外心肺停止の患者さんの社会復帰も重要な使命です。
蘇生は、全世界的に知見が集約され、それによるガイドラインが作成されており、私達も、目撃者の初期対応が非常に重要であるという観点から、講習会(BLS、ICLS)等を通じて教育を行っております。
しかし、私達はさらなる救命率の向上を目指して取り組んでいます。具体的には、経皮的人工心肺装置を使用したeCPRや、蘇生後の体温管理療法を含めた集中治療も積極的に行なっています。
上記人工心肺装置(ECMO)は、通常、経皮的に血管にアクセスして導入されますが、困難なときにはカットダウンして直視下に挿入したり、抜去の際には、血管を縫合する必要があります。また、eCPRはどうしても血管アクセスに伴う合併症がありますが、その対処には血管外科的な素養が必要になります。私達は、外傷外科医としてのスキルを活かし、eCPRを迅速に、確実に、そして安全に行うことができると自負しております。
上記のような取り組みの結果、1ヶ月生存率は例年8%前後であり、独歩で退院する完全な社会復帰例も毎年得られています。
一方で、特に高齢者の場合には、その救命行為が、望まない結果になることも多いということが現状です。私達はそのことにも目をそむけず、一番には患者ご本人の、更にはご家族にとって、一番良い結果になるためにはどうしたらよいか、日々模索しながら診療しています。
集中治療 〜ICUに救急医と外科医の視点を〜
救急搬送された専用の集中治療病床(ICU、HCU)を有しており、上記の重症多発外傷、院外心肺停止、を始め、重症感染症、熱傷、中毒の他、あらゆるショック、呼吸不全、意識障害の治療を初期診療から集中治療まで一貫して対応しています。
また、急性腹症などでショックとなり搬送された場合には、当科でAcute Care Surgeryを行い、そのままICUにて集中治療を行います。Open Abdominal Managementなど、外科的な視点が重要な集中治療も、私達の得意とするところです。
近年では重症呼吸不全に対するrespiratory ECMOが注目されております。当センターでも、ECMOを含めた集中治療の豊富な経験を持つ医師がそろっており、適応とされる患者さんに適切に導入、管理しています。新型コロナ感染症流行期には、ICUを専用病床化し、市内はもちろん、県内の重症コロナ患者を受け入れ、必要な症例にECMOを使用、非常に多くの患者さんを救うことができました。
病院前診療 〜現場へ、被災地へ〜
平成25年からドクターカーの運用が開始されました。市民の方が救急要請した際、一刻も早い医師の診察が必要と判断されるケースで出動します。救急隊は搬送を得意としますが、医師看護師ほどの医療介入はできないため、両者が協力することで、搬送しながら、同時に現場から医療行為を開始することができます。
例えば、救急隊が使用できる薬剤は現在、二種類だけであり、しかも心肺停止などの特定の状況に限られています。医師が現場にいくことでその他多くの薬剤の投与が可能になります。難治性心室細動に対するアミオダロン、痙攣重積に対するジアゼパムなどはその一例です。
他にも、外傷であれば、現場でエコーを行い、致死的となりうる体幹部内臓損傷を検索することもできますし、緊張性気胸であれば、現場で脱気を行い、心停止になる前に処置できる可能性があります。
医療者が病院を離れて診療することはとても技術がいることであり、トレーニングはもちろん、日常的に行って慣れている必要があります。これは災害時に被災地に派遣される際にも言えることです。当院でも災害時はDMATを派遣しますが、その際にこのドクターカーの病院前診療のスキルは生かされることと考えています。
2019年は年間800件程度出動しており、特に外傷や致死性不整脈、痙攣重積などの症例で大きな成果が得られています。